システム開発の成功率は極めて低いとされています。
システムを「外注」するときに読む本 細川 義洋 (著) には、こんな一説があります。
少し前まで、日本のシステム開発プロジェクトの成功率は3割と言われていました。実に3分の2以上が失敗していたのです。新しい開発技術が生まれたことなどから、今ではずいぶん改善されましたが、それでも他のプロジェクトに比べると、非常に成功率が低いのが現状です。
システムを「外注」するときに読む本 細川 義洋 (著)
ほんとうに成功率にして3割程度なのか、疑問に感じたので、IPA情報処理推進機構が公開しているソフトウェア開発データ白書2018-2019を基に考えたいと思います。
IPA情報処理推進機構とは
IPAとは、独立行政法人情報処理推進機構のことです。情報処理技術者試験などの国家試験を運営する組織です。
Wikipedia「独立行政法人情報処理推進機構」
このIPA情報処理推進機構が公開しているソフトウェア開発データ白書2018-2019ではシステム開発に関する様々な統計データが公開されています。
今回はその中からシステム開発の成功率についての考察を深めていきたいと思います。
システム開発の成功とは
システム開発も含めるプロジェクトを成功と失敗を判断する要素は3つあります。
QCDと言われる、品質、コスト、納期です。
ITプロジェクトだけではなく、プロジェクトというのはこの3つの要素に対してそれぞれ当初の目標を果たすことができたか、遵守することができたかどうかで判断することができます。
ソフトウェア開発データ白書から見る失敗率
ソフトウェア開発データ白書2018-2019では、先ほど説明した品質、コスト(予算)、納期(工期)の3つの観点でそれぞれ予定通りかどうかや、満足かどうかについて企業にアンケートを取った結果が掲載されています。そこで、これらの結果から失敗率を考えてみたいと思います。
結果は次のようになっています。
※選択肢a、b、c、d、e の内容
Copyright 2018-2019 IPA ソフトウェア開発データ白書2018-2019 P77
【123_実績の評価(コスト)】 a:計画より10%以上少ないコストで達成、b:計画通り(± 10%未満)、c:計画の30%以内の超過、d:計画の50%以内の超過、e:計画の50%を超える超過
【124_実績の評価(品質)】 稼動後不具合数が、a:計画値より20%以上少ない、b:計画値以下、c:計画値の50%以内の超過、d:計画値 の
100%以内の超過、e:計画値の100%を超える超過
【125_実績の評価(工期)】 a:納期より前倒し、b:納期通り、c:納期を10 日未満遅延、d:納期を30 日未満遅延、e:納期を30 日以上遅延
図表4-14-4 ● 実績の評価(QCD)一覧 4. 収集データのプロファイルより抜粋
このようにみると、a,bの選択肢の合計は、つまり成功率は85.4%(コスト)、80.4%(品質)、90.1%(工期)となっており、意外にも高い結果になっています。
一方で、プロジェクト成功というのはコスト、品質、納期の3つの要素の目標がすべて達成された状態だとすれば、すべての成否を評価する必要があります。その場合は、どうでしょうか。
こちらをご覧ください。
すると、QCDすべて成功だと自己評価したプロジェクトはなんと、71.9%と、意外にも成功率は7割を超えている結果となっています。
なんと、システムを「外注」するときに読む本 細川 義洋 (著) で記されていた「日本のシステム開発プロジェクトの成功率は3割」とはある意味、真逆の結果となっていることがわかります。
結論
以上のことから、システム開発プロジェクトの成功率について、IPA情報処理推進機構のデータを基にすると、そこまで卑下する必要はなさそうだということもわかりました。
一方で、ここでは詳しく取り扱いませんが、JUAS「一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会」が公開している企業IT動向調査報告書2024(PDF形式)では、また違った結果が公表されいました。
そのため、失敗する確率を恐れてはいけないが、世の中には失敗するプロジェクトも必ず一定数存在し、明日は我が身であるという意識を持っておくことが重要だといえます。
失敗させないための対策
システム開発は要件定義が重要だということは、普段現場で仕事している人なら嫌というほど耳にしていると思いますが、正にその通りです。
ここまで見てきたITプロジェクトの成功率を高め、失敗率を下げていくには、要件定義、基本設計といった上流工程が重要になります。
如何に上流工程で要件や設計を漏れなくだぶりなく整理、検討ができ、システム開発におけるリスクを排除できるかどうかによって成功率は変わってくることはいうまでもないです。
今一層意識してみてください。
上流工程の進め方についてもっと知りたい方はこちらをご覧ください。
出典元:IPAソフトウェア開発データ白書
本記事に登場するグラフやデータはすべてIPA ソフトウェア開発データ白書2018-2019を引用元としております。出典元は以下からご確認ください。
Copyright 2018-2019 IPA ソフトウェア開発データ白書2018-2019
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