IT業界のビジネスモデルは、SIer、SES、自社開発に大別することできます。その中でもSIerに多い客先常駐、客先分室というビジネスモデルについて深掘りをしたいと思います。
私自身、現役でSIer働いており、これまでいくつかの客先常駐・客先分室の現場で仕事をしてきました。その経験をもとに、なぜ客先常駐の現場にブラックな現場が多くなりがちなのかをお伝えしたいと思います。
客先常駐とは
客先常駐とは、自分自身が所属する会社ではなく、顧客企業の現場に入り込んで、日々常駐してシステム開発やシステム保守を行う勤務形態のことです。例えば、あるSIerに所属しているエンジニアであっても自分の会社には出社をせずに、顧客企業の事務所に出社をし、顧客のデスクが並ぶオフィスの隣に座って仕事をするような形態です。2019年~2020年頃コロナを契機に随分とリアルに出社をするような勤務形態は減りましたが、仕事をする場所が自社の拠点や自宅からになっただけで、基本的なスタンスは変わっていません。
大手SIerやプライムベンダーと言われるSIerであっても客先常駐のビジネスモデルは数多く存在しており、むしろ客先常駐がビジネスの基本柱となっています。
AWSやOracle EBS、SAP、Service Now、Salse Force、自社開発した製品などを提供するソリューション提供型のビジネスモデルは、プロジェクトごとに顧客が変わる一方で、客先常駐型のビジネスモデルは1つの顧客からの仕事のみを受託していくビジネスモデルです。そのため、ソリューション型に対して、客先常駐はアカウント型とも言われます。
客先常駐の割合
IT企業では客先常駐が多く、コロナにより減少傾向にあるものの、全体の約8割以上を占めています。
参考:「ITエンジニアの労働実態調査」から見える客先常駐の実態
客先常駐がないSIer
客先常駐がないSIerは基本存在しないと思っておいた方がよいです。先ほど触れた通り、全体の8割が客先常駐のビジネス形態です。
様々な記事では自社開発を行っているSIerやプライムベンダー・元請けとなるSIerは客先常駐がないようなことが書かれていますが、現場で働く身としても感じますがそんなことはないと思います。確かに部署によっては客先常駐とは縁もないような部署や、客先常駐であっても顧客企業にそこまで依存していない部署も存在するとは思います。
ただ、SIerの多くはいまだに人月商売による労働集約型のビジネスモデルである客先常駐を売上の柱としています。そのため、運が良ければ客先常駐のない部署で仕事することもできますが、全く存在しないということは基本的にはない、という覚悟を持っておいた方がよいです。
なぜ客先常駐はつらいのか
SIerはつらいと良く言われます。そのSIerではおよそ8割が客先常駐の形態があると言われています。では、なぜ、客先常駐はつらいのでしょうか?
それは、どうしても顧客の言いなりになりやすいからです。
客先常駐はアカウント型ということで、その1つの顧客によって良くも悪くも左右されます。顧客の業績が良くIT投資にお金が回れば、仕事は増えますが、業績が悪ければ仕事は減ります。そのため、これまでの請負っていた仕事が減った際には、苦手であったり経験の浅い分野の仕事も取りにいかなければなりません。
また、顧客側もSIerベンダーが自分たちに依存していることを知っていますから、時に無茶なお願いをしてくることもあります。しかし、SIerは長年の付き合いや関係性からなかなか断ることができずに、厳しい条件であっても仕事を受けてしまいがちです。その結果、プロジェクトがトラブルになるケースも多いです。会社としても客先常駐はビジネスの柱ですから、多少無理であっても仕事を受けることで次に繋げていきたいと考えます。そして、一度無茶な条件で仕事を受けると、「前回も受けてくれたから」という理由で再び無茶な条件で仕事を受けることにもなり、悪循環となります。
客先常駐が合う合わないは人による
一方で、客先常駐が向いている人という方もいます。様々なことに挑戦できる環境ともいえますし、顧客と近い立場で仕事することも多いですから、経験できる幅や深さもそれだけ充実しています。
また、顧客の担当者に気に入られて、顧客から気に入られると自社よりも居心地が良いと感じる人もいます。私の知り合いでは、客先常駐している先で出会った顧客の担当者とそのまま結婚したという方もいます。
良い客先常駐であれば、その顧客から様々なことを教えてもらうことができ、顧客企業の業務やビジネスモデルについても詳しくなり、顧客以上に顧客に詳しい、そしてITのことも当然分かるという貴重な人材になることもできます。そうなれば、更に居心地は良くなりますし、顧客企業の同業他社の情報システム部門への転職や、他SIerに転職する際の強みとしても活かすことができます。
私は客先常駐があまり向いていませんでしたが、客先常駐をすることで見えてくることもあるので、まだ客先常駐を経験したことがない方もチャンスがあれば若いうちに一度客先常駐を経験することは良いかと思います。
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