システム開発プロジェクトを進めるにあたっては作業工数以外にもプロジェクト管理工数が必要になります。
その工数について、どれくらいの割合、比率が適切なのかというのはしばしば議論になります。IPA情報処理推進機構のデータ白書を参照してもなかなかずばりの数字は載っていないのが実情です。
そんな中、システムを「外注」するときに読む本 細川 義洋 (著) には次のような一説があり、プロジェクト管理工数の目安は10%だと言われています。
システム開発請負の見積もりでプロジェクト管理工数を全体の10%と見積もっている。なかなかいい数字よね。
(中略)
見積もりの段階で管理工数が5%を下回っていたら、どこかに抜けがあるって考えたほうがいいし、そんな見積もりを出すベンダの管理は危ないって思ったほうがいい。
システムを「外注」するときに読む本 細川 義洋 (著)
では、果たしてプロジェクト管理工数10%というのが妥当なのかどうか、自身の経験などをもとに考えてみたいと思います。
スポンサーリンク
結論
今回の記事の結論はこちらです。
この結論を基に、プロジェクト管理工数の妥当性について考えていきます。
・プロジェクト管理工数は10%が妥当
・一方で、プロジェクトマネージャーの工数を考える場合は20%確保しておく必要もある
スポンサーリンク
プロジェクト管理工数とは
そもそも”プロジェクト管理”とは、何を指しているのか、どこからどこまでの作業のことを言うのか、その定義からする必要があります。
ここでは次のような棲み分けをしてみたいと思います。
【プロジェクト管理作業に含まれる作業】
システムを作るにあたって直接は関わらない間接作業です。
- プロジェクトメンバーの作業管理・作業調整
- プロジェクトメンバーの進捗管理(作業状況の確認)
- プロジェクト遂行上のプロジェクト課題への対応*
- 社内外に向けた報告資料作成
- 定例会議に向けた準備
【プロジェクト管理作業に含まれない作業】
システムを作るために必要な直接的な作業です。
- 要件、仕様の検討作業
- 要件や仕様、設計書など成果物に対するレビュー工数
- プロジェクトメンバーからの要件仕様、設計に対する相談工数
- 要件、仕様、設計といったシステム開発課題への対応*
このようにシステムを作る過程において直接的な作業となるか、間接的な作業となるかで分けることができると思います。ここでポイントになるのは、「課題への対応」です。ここでの解釈、整理としては、課題の内容によってその課題への対応工数が管理作業となるかそうではないかの切り分けができると考えたいと思います。
プロジェクト管理工数で対処すべき課題とは、品質、進捗、コストに影響するようなプロジェクト全体に影響するような課題です。例えば、プロジェクトメンバーが病欠によって1週間不在となったためそのリカバリ計画を考える必要があるであったり、対向システムのシステム開発ベンダーとの日程調整や秘密保持契約の取り交わしだったりがこれに当たります。
一方で、プロジェクト管理工数で対処すべきではない課題とは、個々の画面仕様や機能設計といった個別検討を進める中での課題検討です。私はシステム課題と呼んでいます。またそれに付随して、プログラムメンバーからの日々受ける要件や仕様の相談についても、プログラム管理作業というよりも、個別具体的な課題検討と位置づけるべきであり、プロジェクト管理工数に含めない方がよいと考えています。
スポンサーリンク
プロジェクト管理工数の計上方法
プロジェクト管理工数の見積もり方法
プロジェクト管理が具体的に何をするかを確認しました。しかし、管理作業を1つ1つ洗い出して工数算出することは非現実的です。なぜなら、すべての管理作業を漏れなくだぶりなく洗い出すことがほぼ不可能だからです。
そもそもプロジェクト管理(プロジェクトマネジメント)とは、プロジェクトがうまくいくように”やりくりする”という意味です。そのため、うまくいくためにはなんだってしますし、しなければいけません。また、プロジェクトとは不確実性の塊です。そのため、不確実性が高いものに対して、最初からうまくいかせるために必要な作業をすべて洗い出しておくこと自体不可能です。管理作業として洗い出していなかったからやりませんでは、プロジェクトはうまく進みません。
そのため、プロジェクト管理工数の算出は、具体的に検討ができるシステム開発作業(要件定義書の作成工数、設計工数、実装工数など)を基に、ここから必要な管理工数を割合で計算するということが現実的です。
プロジェクト管理工数のイメージ
では、ここで定義したプロジェクト管理工数がどのようにプロジェクト全体の工数に上乗せされるのか確認していきたいと思います。具体的なイメージを持って考えます。
このように、開発作業に関わる個別具体的な直接的なタスクを積み上げていき、そこから算出される全体工数に対して10%を掛け合わせることで、間接作業であるプロジェクト管理工数を導出することとなります。
別の言い方をすれば、タスクの総積上げ工数を1.1倍した値が管理作業も含めたトータル工数となります。
スポンサーリンク
管理工数10%の妥当性検証
10%という割合の根拠
続いて、システムを「外注」するときに読む本 細川 義洋 (著) で示されていた管理工数10%という割合が妥当なのか考えたいと思います。
管理工数10%というのは言い換えれば、メンバーが10人に対してプロジェクトマネージャー1人という割合です。
メンバー10人で1か月あたり20営業日の場合、作業工数=10人×20日=200人日。
プロジェクト管理工数=200人日×10%=20人日=1人月。
つまり、言い方を変えれば、管理工数をプロジェクトマネージャー1人がすべて使う場合、管理工数10%とは、プロジェクトマネージャーが一人で同時に10人を管理するということです。10人までであれば、前述した管理作業をプロジェクトマネージャーが一人で回せるという計算です。
確かにこれであれば、1日の稼働時間を8時間とした場合に、10人のメンバーがいれば、1人あたりにかけられる管理工数は0.8時間/人、つまり50分弱となります。単純計算ではありますが、毎日50分一人ずつ作業管理したり、進捗管理したりすることができると考えれば、決して余裕があるとまでは言えませんが現実的な割合だと思います。
スポンサーリンク
管理工数10%の罠
管理工数10%=1か月で10人のメンバーを管理するということだと整理できました。
しかし、この管理作業には前述のとおり「システム開発課題の検討」や「メンバーからの要件仕様、設計相談」といった開発作業に直接かかわる作業は含まれていません。
先ほどの体制図のように、1人のプロジェクトマネージャーの下に10人のメンバーが同列にいた場合、システム開発に関わる直接的な作業をリードする人がいません。そのため、現実的には、10人全員がプロジェクトマネージャーに開発作業の内容相談をすることになり、プロジェクトマネージャーがシステム課題の検討もしなければいけない事態となります。
これでは、管理工数+αの工数が必要となり、プロジェクトマネージャーの工数が20人日(1人月)を超えてしまいます。
私の経験上、これがプロジェクトマネージャーが忙しくなり、プロジェクトが回らなくなる大きな原因の1つです。
そのため、このように管理工数10%と見るのであれば、システム開発に関する直接的な作業にプロジェクトマネージャーが携わらなくても良いプロジェクト体制とすることが重要だと考えてます。例えば、次の図のように体制図上、いくつかの小グループ、チームに分けて、システム課題の検討や相互レビューの実施ができるようにします。
以上のことから、管理工数10%というのは”条件付き”で妥当な割合だといえると思います。
スポンサーリンク
妥当な管理工数とは
条件付きであれば管理工数10%は妥当だと整理しました。
しかし、なかなか前述したような理想的な体制を作ることができないのが現実です。仮に小グループを形成したとしても、プロジェクトマネージャーもシステム開発に関わる直接的な作業に関与しない訳にはなかなかいきません。そのため、プロジェクトマネージャーの工数=プロジェクト管理工数として算出する場合には、管理工数10%は物足りないというのが私の感覚になります。
そのため、どういった体制を組むことができるかによってプロジェクトマネージャーの工数が変わりますが、直接作業に関するレビュー工数などもプロジェクトマネージャーの工数の一部として見なすのがよいと思います。
レビュー工数を個々に見積もる方がより正確ですが、概算として1つの目安を示すとしたら、やや多めではありますが、プロジェクトマネージャーの工数は20%が妥当と考えてます。
プロジェクトマネージャーの工数は20%として、この中で前述してきたようなプロジェクト管理作業も、システム開発に直接関わる作業のレビューやメンバーとのコミュニケーションも実施するのが良いです。
この場合、1か月あたりに関わるメンバーは5人となりますが、直接作業も間接作業もプロジェクトマネージャー一人でメンバーに施すことを考えれば、プロジェクト管理作業のみの2倍は必要ということができます。この考えの根底には、プロジェクトマネージャーが行う間接作業と直接作業は1:1という前提を置いていますが、概算で見積もるうえでは十分かと思います。
メンバー5人で1か月あたり20営業日の場合、作業工数=5人×20日=100人日。
プロジェクト管理工数(間接作業)=100人日×10%=10人日。
プロジェクトマネージャーの工数(直接作業+間接作業)=プロジェクト管理工数(間接作業)×2 =20人日 =1人月。
勿論、プロジェクトの体制以外にも様々な要素を基にして、管理工数を調整することは良いことだと思いますので、そちらについてはプロジェクトごとに検討が必要だと思います。
スポンサーリンク
管理工数及びPM工数の目安は10%~20%が妥当
ここまで、プロジェクト管理工数の目安について考察してきました。
10%必要という「システムを「外注」するときに読む本 細川 義洋 (著) 」の主張をもとに、その前提となる考え方について考察してきました。すると、その数字の根拠にはいくつかの前提条件が必要ということも見えてきました。
プロジェクト管理工数をプロジェクトマネージャーの工数とする場合には、10%では物足りず、20%は必要だという見方もしてきました。
以上を踏まえると、プロジェクト管理工数は10%でも良いが、プロジェクトマネージャーの工数を考える場合にはプロジェクトの特性やプロジェクトの体制上のリスク、問題、そしてPMがどれだけ要件、設計に関わるかを考慮して、10%~20%の間で調整する必要があると整理できるかと思います。
最後に、この記事を書くきっかけとなったこのポストには様々な意見が寄せられているのでぜひこちらもご覧いただければより理解が深まると思いますので併せてご覧ください。
皆さんはどう考えますか?最後までご覧いただきありがとうございました。
コメント