システム開発におけるレビュー指摘密度及びレビュー工数密度について、IPA独立行政法人情報処理推進機構が公開しているソフトウェア開発データ白書の内容をもとに、色々と考えたいと思います。
プロジェクトマネジメントするうえでも、普段自ら実装するうえでも、レビューをしたらどれくらい指摘を出すべきで、どれくらいの時間をかけるべきかについてざっくりとした目安を持っておくことは重要だと思うので今回はその指標について考察します。
パッケージシステムの導入におけるレビュー指摘密度、レビュー工数密度は、通常のエンハンス開発や保守開発と同様に捉えてよいと考えていますので、そういう意味ではあらゆるシステム開発・導入に活かすことができる指標値かと思います。
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レビュー指摘密度
レビュー指摘密度とは、単位規模あたりの指摘件数です。つまり、端的にいえば、設計書1ページあたりの指摘件数です。
新規開発や改良開発、再開発といった開発種別に依らずに同じ傾向がみられるとのことで開発種別ごとのデータは公開されていなかったため、全種別同じようにみて問題ないようです。
基本設計(外部設計)におけるレビュー指摘密度
IPAによる指標では、平均では1ページあたり0.65件、中央値で0.28件の指摘が出てることが見て取れます。
詳細設計(内部設計)におけるレビュー指摘密度
平均では1ページあたり0.30件、中央値で0.16件の指摘が出てることが見て取れます。
レビュー指摘密度の目標値、考察
IPA情報処理推進機構が公開しているデータを工程別のレビュー指摘密度(平均)及び、(P75)に焦点を当てると次のようになっています。
工程 | レビュー指摘密度 P75 (件/ページ) | レビュー指摘密度平均 (件/ページ) |
---|---|---|
基本設計 | 0.76件/ページ | 0.65件/ページ |
詳細設計 | 0.42件/ページ | 0.30件/ページ |
レビュー指摘密度を受けての考察
私の感覚でいえば、少ないなという印象でした。平均はおろか、75%タイルに焦点を当てても1ページあたり1件にも達していないのは意外でした。私のプロジェクトは平均すると、基本設計でも詳細設計でも3件/ページくらいは指摘が出ている印象です。そのため、私のプロジェクトでは品質が良くないのかなといった印象も抱きましたが、収集しているデータに差異があるようにも見えます。
また、印象的なことととしては、詳細設計の方が基本設計よりもレビュー指摘密度が低いことです。これは感覚的にも近いものがあり、より上流工程で指摘を出すことができれば、次工程では指摘が減る傾向にあるといえるかと思います。そのため、より上流で多くの指摘を出すことを意識すると良いと思います。
レビュー指摘密度の目標値
標準偏差も大きくなく平均値が最大値に引っ張られている印象もないので、無難に平均値を使うと良いと思いました。
ただ、指摘を出して品質を高める意識も必要ということから、レビュー指摘密度の目標値として採用するのであれば75%タイルを採用して基本設計0.8件/ページ、詳細設計0.4件/ページを目安とするのが有効だと思います。平均値であっても中央値よりは高いですが、私は今後75%タイルを使っていきたいと思います。
レビュー工数密度
レビュー工数密度とは、単位規模あたりのレビュー工数です。つまり、端的に言うと、設計書1ページあたりにかけた工数です。
レビュー指摘密度とは違い、新規開発や改良開発、再開発といった開発種別ごとに統計値に違いが見えたため、開発種別ごとの統計調査の結果を紹介いたします。
基本設計(外部設計)におけるレビュー工数密度
IPAによる指標では、新規開発においては、平均では1ページあたり6.22人時、中央値で0.61人時の工数をかけていることがわかります。
改良開発においては、平均では1ページあたり6.21人時、中央値で0.44人時の工数をかけていることがわかります。
基本設計に関しては、再開発時のデータは掲載がありませんでした。
詳細設計(内部設計)におけるレビュー工数密度
新規開発、改良開発、再開発の3つの開発種別ごとに紹介します。
IPAによる指標では、新規開発においては、平均では1ページあたり5.0人時、中央値で0.45人時の工数をかけていることがわかります。
改良開発においては、平均では1ページあたり7.5人時、中央値で0.19人時の工数をかけていることがわかります。
再開発においては、平均では1ページあたり0.21人時、中央値で0.08人時の工数をかけていることがわかります。
レビュー工数密度の目標値、考察
IPA情報処理推進機構が公開しているデータを工程別のレビュー工数密度(平均)及び、中央値、P75に焦点を当てると次のようになっています。
新規開発 工程 | レビュー工数密度中央値 (人時/ページ) | レビュー指摘密度 P75 (人時/ページ) | レビュー工数密度平均 (人時/ページ) |
---|---|---|---|
基本設計 | 0.61人時/ページ | 7.25人時/ページ | 6.21人時/ページ |
詳細設計 | 0.45人時/ページ | 0.93人時/ページ | 4.99人時/ページ |
改良開発 工程 | レビュー工数密度中央値 (人時/ページ) | レビュー指摘密度 P75 (人時/ページ) | レビュー工数密度平均 (人時/ページ) |
---|---|---|---|
基本設計 | 0.44人時/ページ | 0.90人時/ページ | 6.21人時/ページ |
詳細設計 | 0.19人時/ページ | 0.40人時/ページ | 7.49人時/ページ |
再開発 工程 | レビュー工数密度中央値 (人時/ページ) | レビュー指摘密度 P75 (人時/ページ) | レビュー工数密度平均 (人時/ページ) |
---|---|---|---|
基本設計 | ー | ー | ー |
詳細設計 | 0.08人時/ページ | 0.28人時/ページ | 0.21人時/ページ |
レビュー工数密度を受けての考察
平均よりも75%タイルの方が小さいや標準偏差が大きいことから、最大値に引っ張られて平均が引き上げられていることがわかります。したがって、レビュー工数がかかるものはとことんかかる、一方でかからないものはかからないということができます。そのため、レビューは対象ドキュメントごとに濃淡をつけて、難易度が高い機能にはじっくりと工数をかけ、難易度の低い機能は簡素なレビューで済ませるといった対応が必要だといえます。
また、詳細設計において新規開発よりも改良開発の方がより工数がかかっている点については、改良する機能以外の部分に影響を与えぬようにより工数をかけてレビューする必要があると考えられます。
レビュー工数密度の目標値
基本設計における再開発時のデータは公開されていないこと、平均値は最大値に引っ張られていることを考えると、レビュー工数密度の目標値は中央値をざっくり採用して、基本設計では新規開発0.6人時/ページ、改良開発0.5人時/ページ、詳細設計では新規開発0.4人時/ページ、改良開発0.2人時/ページとすると良いと思います。
しかし、前述の通りあくまで平均であって濃淡をつけてレビューする方が重要な気がします。
まとめ
IPA情報処理推進機構が公開してくれているデータをもとに考察などしてきました。
細かい数字を覚えたいわけではないので、今回の内容を受けて超ざっくりと覚えておきたいことは次の4点になるかと思います。
- より上流でより多くの指摘を出す
- レビュー指摘密度の目標値は1ページあたり1件指摘を出すことを目安とする(目標値には75%タイルを採用)
- レビューは難易度に応じて濃淡をつける
- レビュー工数密度の目標値は1ページあたり30分弱。ただし、機能ごとに濃淡をつける方が重要(目標値には中央値を採用)
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レビュー工数密度、レビュー指摘密度に関して分析結果をどう考察していくか、ゾーン分析をどのように行っていくかについてはこちらをご覧いただければ、今回の考察をもとにした時の品質管理の方法まで理解することができると思います。
出典元:IPAソフトウェア開発データ白書
本記事に登場するグラフやデータはすべてIPA ソフトウェア開発データ白書2018-2019を引用元としております。出典元は以下からご確認ください。
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グラフデータの注意点
前述の通り、工程定義が違えば、工程の割合も変わってきます。
本記事のデータの出典元である「IPA ソフトウェア開発データ白書2018-2019」における工程定義は次のようになっており、各工程別工期比率及び、工数比率における総合テストとは総合テスト(ベンダ確認)となります。
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