IT業界における働き方を考える際、「SIer」と「SES」という用語が頻繁に登場します。
これらの違いについて混合したり、そもそも同じようなものこれらの違いを解説したりしているサイトが目立ちます。しかし、SIerとSESはそもそも全く別のもの、というより比較対象がそもそも違います。
以前、X(旧Twitter)でこんなポストをしたところ思いのほか反響をいただきました。
そこで、今回は世直しの気持ちでSIerとSESの違いについてこのポストの内容を更に掘り下げて解説したいと思います。
SIerとSESの違いとは?
SIer(システムインテグレーター)とは?
SIerとは、企業や官公庁といった顧客・クライアントの要望を受けてシステムを設計・開発し、導入・運用までを行う「企業」「業態」のことを指します。重要なことなのでもう一度言うと、SIerとは企業・業態のことです。
一つのプロジェクト全体を統括し、クライアントに対する窓口となることが特徴です。特に、一次請けと呼ばれ、企業や官公庁といった顧客と直接契約を行うプライムベンダーにおいては、以下のような特徴が挙げられます。
プロジェクト全体の遂行
SIerは、顧客との契約を直接結び、システム開発プロジェクト全体を管理します。これには、要件定義といった上流工程から、設計、開発、テストといった開発工程、そして稼働後の運用保守工程といった一連の工程を遂行することも含まれます。SIerはプロジェクトの成功に向けて、スケジュール管理や品質管理、コスト管理を行います。
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BP企業の統括
一次請けSIerは、大手企業や官公庁と直接取引を行うことが多く、数億円規模の大規模案件に携わることが一般的です。そのため、組織的な体制を整え、複数のベンダーを統括する役割を担います。
ここでいう複数のベンダーというのが下の図でいう2次請け、3次請けにあたるBP(ビジネスパートナー)と呼ばれる企業に当たります。
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SES(システムエンジニアリングサービス)とは?
一方で、SESとは、エンジニアを顧客企業に派遣し、一定期間その企業のプロジェクトに従事させることで、その対価を得るビジネスモデルのことです。重要なことなのでもう一度言います、SESはビジネスモデルのことです。決して企業のことではありません。
SES企業とは、SESを生業として収益を上げている企業のこと総称です。つまり、SIerであっても顧客・クライアントに対してスキル提供をしていればSESをやっていることとなり、SES企業と呼ぶことができます。
SESについてもう少し具体的には解説します。
工程ごとのスキル提供
よくSES契約では、特定のプロジェクトの一部に参画することが多く、要件定義や設計といった上流工程よりも、コーディングやテストといった開発・運用フェーズが主な業務となると言われがちです。
確かに、開発・運用といった下流工程の方がSESのビジネス規模が大きいです。しかし、私は間違っていると思います。開発・運用工程の方がビジネス規模が大きくなる理由は、システム開発自体が開発工程や運用工程の方がより多くの人が関わるため、その結果としてより多くのSESが必要となるからです。どの工程であってもスキル提供するということは自体がSESに当たります。
そして、重要なことはスキル提供を行う時の契約形態です。
SESは準委任契約での契約になります。つまり、SESは、成果物に対する成果報酬型の契約や成果物の完成責任を負う請負契約ではなく、あくまでスキルを提供した時間に対して対価が支払われる契約形態となります。
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”顧客”へスキル提供
SESは、顧客が必要とするスキルを持つエンジニアを顧客企業に派遣します。具体的な作業内容は顧客が指定し、SESを提供する企業は必要とされる工程にあったエンジニアのマッチングを行うこととなります。
ここでポイントとなるのは「顧客」が指す範囲です。顧客、クライアントという言葉は誰にとっての顧客なのかによってその立場が変わります。2次請けSIerは3次請けSIerにとっての顧客になりますし、1次請けSIerは2次請けSIerの顧客になります。当然、企業・官公庁は1次請けSIerの顧客です。
どういう立場であっても、自分たちにとっての顧客にスキルを提供することをSES(システムエンジニアリングサービス)と呼びます。
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SIerとSESの違いまとめ
SIerとはシステム開発・導入を行う企業・業態のことであり、SESとはシステム開発・導入を行うために顧客・クライアントにスキルを提供するビジネスモデルのことです。
したがって、そもそもSIerとSESの違いとして、SIer企業、SES企業と呼んで、企業という枠組みの中で比較しているサイトが多いですが、ほとんどのサイトがそもそも比較対象を間違って解説していると思います。
繰り返しですが、SIerは企業及び業態のことであって、SESはビジネスモデルのことです。SIerだってSESをやっていることになりますし、その契約形態が一般的には準委任契約となります。1次請けSIerが企業・官公庁に対して行う要件定義工程は準委任契約の最たる例です。そのため、1次請けSIerも要件定義という形でSESをやっていることになります。
いかがでしょうか?
何度も言いますが、SIer企業とSES企業という比較自体が間違っていることをご理解いただければと思います。
この認識が少しで広がれば幸いです。
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